猫と髭と夏の雨と
「ここまで何か不都合等は御座いますか?」
畳み掛けられても、整理や理解が出来ない。
いつ、どこで始められて終わるのかも見当が付かない。
それは女性の気が向いた合間で赴くままに、と言う事か……。
此方には御座いません、と答える他に選択肢など無いのだ。
更に腑抜けた身体で煙草を取り出して口にする動作を繰り返し、途中で何をしてるのか分からないままの拍子で、浮かんだ疑問を投げ掛ける。
「それで……、撮影はいつから、でしょうか」
「先程に咲山が申した通り、連絡を待って頂くしか御座いません」
漸く理解して味の無い棒を灰皿へ投げ入れ、煙草を吸いながら今後に脳裏を廻らせ始める。
自分が出来るのは連絡が来るのを待ち、"女優"に対しても当たり障り無くすれば良いか、と気軽に考えた。
「それと、一点だけ重要なことを忘れていました」
思い付いたような声に顔を向け、碌な返事もせずに続きを伺う。
「咲山への扱いは慎重に御願い致します、当社の大事な"商品"ですので」
煽る様な口振りに、軽い苛立ちを抱えた。
自ずの立場は言われなくても弁えているが、一部分だけが妙に気に障る。
依頼された件の気持ちが下降を辿る一方で、適当に過ごせば相手が匙を投げると目論む。
けれど、本音を洩らせば今直ぐにでも仕事を捨てたい。