幼なじみの外科医と密なる関係~甘やかな結婚生活~
私を見て?

私の事も考えて?

帰りが遅くなる度に、急患が搬送されて急遽の泊まりになる度に、本当はずっと寂しくてたまらなかった。

披露宴当日も何とも言えないやるせなさと脱力感に落ち潰されそうになって、涙が枯れるくらいに泣いても……、良い奥さんを演じたいが為に、

"本当は寂しかった"、

"一生に一度の瑛ちゃんとの披露宴を壊されて悲しかった"と言えなかった。

瑛ちゃんの仕事は人の命に関わる事で優先するのは当たり前だから、我儘なんて口に出しては言えなかった。

我儘なんて言えなかったから、瑛ちゃんが私の想いを読み取って尊重してくれた事、心底嬉しいの。

「本日は新婦、陽菜乃ちゃんのお兄様にウェディングケーキを作って頂きました!」

感動して泣きそうなのだけれど、そんな暇は無さそうだった。

ワゴンに乗って運ばれてきたのは、何と生菓子の練り切りで出来た可愛い動物達や桜の花びらが周りに飾ってある、見た目が和風な長方形のケーキ。

「お兄が作ったの……?」

「妹と親友の為だからね。抹茶のマーブルカステラをベースにお祝いの桜あんでデコレーションしたんだ。初音がデザインして一緒に作ったんだよ」

「初音さんも一緒に……? ありがとう、本当にありがとう……! こんな素敵な和風のウェディングケーキ、お兄と初音さんしか作れないよ」

後程分かった事だが、実家でのお祝いの時に作ろうと構想していたらしく、今日のケーキはそれを大きくしたものだそうだ。
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