遊川くんは我慢ができない⚠



「ずっと俺のことだけを見てたらいいのに」

「え?」


 周りが痛いほどにさわがしい中で、静かに声が落ちた。


 そこには遊川くんに似合わない切なげな色が滲んでいたから、私は耳を疑った。


「だって、りっちゃんは俺が妬きそうになるくらいみんなに優しくするし。笑いかけてんのとか頼られてんのを見たときとか、相手が女子でも“俺のなのに”って割って入りたくなる」

「そんなこと思ってたんだ……?」

「うん、俺ってけっこう心がせまいの」


 開き直りながら、というよりもどこか自嘲(じちょう)気味な遊川くん。


 明るくて自由で、キラキラした男の子だと思ってた。


 それが、実はほの暗い部分もある人なんだって。


 遊川くんの素の部分に触れられたような気がして、ほんの少し浮足立ってしまう。


 だけど、遊川くんが大人しかった時間は、たった1分にも満たなくて。


「りっちゃんはよく笑顔をばらまいてるけど、ほっとしたみたいな笑顔は俺にしか見せないよね」


 零れた本音を隠すみたいに、にこっと笑いかけてきたかと思えば。


「……言われてみれば、そうかも?」

「俺にだけ無防備なの、すっごくいい」


 ちゅって。


 ほんの一瞬、唇にやわらかいものが触れた。


< 26 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop