オタクな俺とリアルな彼女。
連れていかれたのは,カフェの中でも隅の席。

場所取りに使われたであろうバックが見える。

それこそ社会人の女性が使うような,口の広く使い勝手の良さそうなレザーバック。

いや,もちろん他にも同じようなものを使う人はいる。

ただどうしても大人っぽいイメージが抜けない。

しかも,まさかのたった1つ違いだなんて……

丸机を挟んで,俺は彼女と座った。

彼女は机に置いていたバックを,自身の隣,床に置く。

そしてじっと俺を観察するように見つめた。



「……本名じゃ,無かったんですね…」


堪えられなかった俺は視線を横にそらしながら尋ねる。

人差し指をメガネに添えるように左手で頬杖をついた彼女は「は?」と片眉を上げた。

その心底意味が分からないという表情に,胃がきゅっと小さくなる。

サシは流石に,刺激が強い!

ご褒美という言葉と,何を考えてるんだと言う言葉で頭が一杯だ。

一方で

あー,くそ。

1番いい服来てくれば良かった。

どこか冷静で,少しご褒美に傾いた正直な気持ちも存在していた。



「本名な訳がないだろう。あれは友人から借りた名前だ。呼び名が無いのは不便だからな」



そーーですよね~! ネットで本名公開なんて,そんなリスキーで意味のないこと奏さんがするわけないですよね~

あ,奏さんじゃないのか。
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