オタクな俺とリアルな彼女。


先輩は珍しく,ニッと笑った。



「それでいい」



嵌められたと分かった時には,手の中に紙面と画面上でしか見たことのなかった現物がそこにある。



「……君は」



先輩は言葉を止めた。

俺は放心した心を何とか取り戻して,先輩をチラリと下から覗き見る。

あの先輩に,いい淀むことなどあるのか。



「何か,言いづらいことでも……?」



丁寧にグッズを膝に置いて,俺は尋ねた。

先輩がグッと机の上の手に力を込めたのが見える。



「君は……何故私の事が好きではなくなったんだ……?」



時間が止まったように,呼吸や心臓を奪われたかのように,俺の頭は真っ白になった。

何を,言われた?

どういう,意味,で……



「いや,やっぱりいい。忘れてくれ。理想と現実がチグハグであることなど,良くあることだ」



隠しておくこと等,出来ない。

そんな言われ方をしたら,俺が先輩に,何かしらの失望をしたみたいじゃないか。
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