木曜日は立ち入り禁止。
「なぁんだ、つまらん」
「つまらんって何ー」

私はほっとして顔を緩めた。

なーさんはそれ以上過去に踏み込むことはなくて、

いつも通り、普通の日常がゆっくりと流れて行った。


「起立、礼」
「佐藤!帰りのHRくらいシャキッとしろ!起きろ」

佐藤くんはまた河合先生に怒られている。
いつも通りすぎて安心出来る。確か一昨日もあの席で怒られてたな。

先生の怒号で幕を閉じた金曜日の学校には、綺麗な夕日が指していた。

「りっちゃん、今日はお仕事?」
「そーなのー!!なーさんもバイトだし……みくる、1人で帰れるよね?」
「あはは、心配しすぎだよ」
「心配するよー!だってこんなに可愛いもん!」

大丈夫だよ、と言って2人を見送り、私は部活に向かおうとカメラを持って教室を出ようとした。

ぱしっ
と誰かが私の腕を掴む。

「ひっ」
「だから、驚きすぎだって」

見上げると藤くん。
びっくりして固まる身体をさすっていると

「あ、ごめん。そんなに怖かった?」

と少し申し訳さそうに私を覗き込む。

「だ、大丈夫だよ!今日はちょっと…、調子が悪くて」
「そう?それだけなら良かった」

藤くんはポケットからキャラメルを取りだして、お詫び、と言って1つくれた。

「あ、ありがとう」
「あのさ、LINE交換しない?」

活き活きとした彼の目が、少し長い前髪の隙間から見えた。

「LINE?」
「そう、木曜日にモデルをしてくれるって約束と、連絡とる時に必要でしょ」
「そっか、確かに」

追加するとすかさずシュポンッとスタンプが送られてきた。
可愛いくまさんがブリッジしながら「よろしく」と言っているスタンプ。

思わず笑ってしまった。

「え、何、なんで笑うの」

少し赤くなった彼はムッとしたように聞いてくる。

「ふふっ、だって、こんな可愛くて面白いスタンプ送ってくるなんて思わなくて…」
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