木曜日は立ち入り禁止。
「……なんで?」
「え?」
目の前に座る藤くんは、不思議そうに私を見つめている。
放課後、私たちは美術室に来ていた。
「え、あれ、私声に出てた?」
「ちょっとだけ。私は恋ができないーみたいな」
わっ、どうしよう。
また変な心配をかけてしまう。
「……大塚って、男子が苦手なんだっけ」
「うん、ほんとに、少しだけね」
「それが原因で恋愛できないって思ってる?」
カウンセリングでもするように優しく語り掛ける藤くんの瞳は私を捉えて離さない。
「…うん。」
そんな瞳に見られると、全てを見透かされているようで、何だか嘘がつけなくて、ついつい頷いてしまう。
「そっか。」
藤くんは視線をずらして少し考え込むようにして、よしっ、と呟いた。
息を吸う音が聞こえて、何を言われるのか怖くて身体が萎縮してしまう。
「絵、描いてもいい?」
彼から発せられた言葉は、拍子抜けする程に怖さの欠片もないものだった。
「えっ、あ、うん」
「今日は、手を描かせて欲しい」
手?
てっきり自画像みたいな感じかと思っていた。
「良いけど、えっと、どうすれば良い?」
「何でもいいよ、その机に置くでも、開いて見せてくれるでも」
机の上に右手を置いてじっとしていると、藤くんは我慢できないというふうに吹き出した。
「えっ、何?!」
私は多分赤くなっていたと思う。
なんか恥ずかしいことをやってしまったのかと思ってむっとしていると
「あのさ、別に身体そんなに動かないようにってしなくていいからね?手だけ動かさないようにでいいよ。左手でなにかしててもいいし」
そういう事か。
とここまで聞いてはっとする。
利き手をモデルにしちゃったら、宿題とか出来ないじゃん!
「あのー、これ左手に変えることは」
「だめ。もう描き始めちゃってる」