木曜日は立ち入り禁止。
ですよね…。

「…………」

左手で慣れないままスマホを弄りつつチラッと藤くんを見ると、静かに手を動かしていた。声を発することも無く、私の位置からは鉛筆がゆらゆら揺れているのが見える。

どんな感じに描いてるんだろう…。

気になって覗き込もうとすると

目が合った。

「っ!」
「影、出来てる」
「あっ、ごめん」

私はパッと身を退けた。
藤くんは少しだけ消しゴムをかけて
鉛筆を置いて

「ねぇ、男子が苦手って、どのくらい?」

と聞いてきた。

「……え、なに急に…」

そんなこと聞かれたことも無くて少し警戒していると、彼は何もしませんよと言うように両手をヒラヒラと上げた。

「怖い思いをさせるつもりは無いよ、ただ、その苦手意識の克服を手伝えればいいなって」
「苦手意識の克服…?」
「そう。大塚は、普通の恋愛がしたいんだよね?そのためには、男子に慣れとく必要があるな、とか考えてない?」

凄い、なんで分かるんだろう。
私がぽかんと口を開けていると

藤くんはそっと私の右手を触った。

「うっ…」

どうしても緊張が抜けない私に藤くんは
大丈夫。とでも言うように手をさする。

「やっぱり、怖い?」
「……少しだけ、」
「大丈夫、俺なんにもしないよ」
「…うん…」

怖くない怖くない。とまるで子供をあやす様に私の手をよしよしする藤くんは、見たことないくらい優しく真剣な眼をしていた。

「…………ごめんね…」
「だから、なんで謝るの」
「だって、私また藤くんに迷惑かけてる…」

私がこんなじゃなければ
もっとすんなりモデルできたし
藤くんだってもっとゆっくり集中しながら
最高の作品を作れたはずなのに……。

「あのさぁ」

藤くんはさっきまで優しく撫でていた手を止めて、ぎゅっと握った。

「え、ちょっと藤く」
「俺迷惑だなんて思ってないよ」

藤くんは少し怒ったような表情。
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