木曜日は立ち入り禁止。
駐輪場には電灯がないから、私たちスマホのライトで照らしながら自転車を探す。

「ちょっと大塚、そっちに光向けたら数学科の先生にバレる」
「わっごめん」
「あ、見つけた。ここに停めてたんだった」

藤くんは鍵をつけてササッと自転車を準備した。

あとは先生たちを警戒しながら門を出られれば…。

くくっと藤くんが笑った。

「なんかさ、悪いことしてるみたいで楽しくない?」

してるみたいって言うかしてるんだけど…。

少年のような無邪気な顔をした彼は、門で影になった場所で自転車に股がる。
後ろに乗った私の腕を前に持ってきて、藤くんはペダルを踏み込んだ。

「わっ、」

思ったよりもスピードが出ていて、思わず声を上げてしまう。
少し怖くて閉じていた目を恐る恐る開けると、藤くんの背中。
なぜだかあまり怖い感じはしなくて、安心して掴まることが出来た。

「大塚、上見てみて」
「上?」

言われるがままに顔を上げると

そこには満天の星が輝いていた。

「わぁっ…すごい」
「大塚、こんな時間に帰ったこと無かったなら、こーいうのも見たこと無かったでしょ」

私はいつも暗くなる前に帰ってたから、こんな綺麗な星空は見たことがなかった。

この高校は割と田舎にあって、街灯も少なくて周りには畑や田んぼがいっぱいある。
考えれば、空気も澄んでいて人通りや車通りも少ないなら空も綺麗なはず。

「凄いなぁ……」
「星に夢中になりすぎて落ちないでよ」

藤くんはそう言って私の両手をぎゅっと支える。

「あ、ごめん嫌だった?」
「ふふっ、大丈夫だよ」

その都度申し訳なさそうにする藤くんが何だか可愛くてついつい笑ってしまう。
藤くんはそれにつられたのかほんの少し笑って

「案外、怖くないでしょ」

と言った。
< 21 / 40 >

この作品をシェア

pagetop