木曜日は立ち入り禁止。
美術室は閑散としていて授業はやっていないようだった。
一般生徒の作品が教室の左脇に、美術部生徒の作品が教室の右脇に置いてある。その隣に私たちの作品が何点か。

写真ってすごく好き。
純粋で美しい景色を、形として残すことが出来る。優しくて暖かい世界が存在したという形が残るから。

…その分、怖い世界も残ってしまうかもしれないけれど。

(あれ?これは…)

写真部は毎週木曜日は活動がお休み。
今日は金曜日なのだけれど、水曜日には無かった新しい作品が置いてあった。

多分、美術部の誰かの作品。

イーゼルは向こうを向いていて、キャンバスに何が描かれているのかは分からない。
覗き込んでみようかな、と思った時、ドアが開いた。

「…あっ、大塚さん!待った?」

さっきの彼だった。
私は反射的にバッと作品から離れた。

「ううん、全然!それで話っていうのは?」

あの作品が気になるけど、今は彼の話を聞こう。そう思って目を合わせようと顔を上げた。

彼の体は、もうすぐ近くにあった。

「えっ……?!」

さっきまで、机を隔てて教室の端と端にいたはずだったのに。
もう男の子の顔は1mも無い距離にあった。

思わず後ろにあった机に手をついた。

「ご、ごめんっ…、ど、どうしたの…?」

普通に、喋ってるつもりなのに
口からは戸惑いと動揺がズルズルと出てくる。

こんな距離、りっちゃんとなーさんとは普通、普通だからっ…

「話が、あるんじゃ、」
「うん、話っていうのはね」

喋りながらもまだぐいぐい近づいてくる男の子。少し赤くなりながら口を開く。

「おれと、付き合ってくれないかな?」

「……え?」

照れたように笑いながら彼は好きになった経緯を話している。いつもあの3人で話している時すごく可愛いだの、顔が好みだの。
そんなの耳に入らないほど私は混乱していた。

「てことなんだ。お試しでもいいからさ、付き合おうよ!」

「いや、えっと……、ごめんなさい」
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