木曜日は立ち入り禁止。
私は机に手をついたまま俯く。

男の子は納得できないような表情で首を傾げる。

「え、なんで?」
「なんでって…、私はあなたのことあんまり知らないし」
「それでもいいよ!付き合おう!」
「…っ、だ、だから」

なんでこんなに話が通じないんだろう。
私は取り乱す心を必死に落ち着かせる。このままだと自分自身が大変なことになるってことを知っていたから。

バンッ!

教室に響いたその音が身体を震わせた。

男の子が苛立ったように机に手を置いた音だった。

「あのさぁ、いい加減にしてくんない?良いじゃん付き合うくらい。あの2人とつるんでるってことはさ、見た目はそれでも所詮お前もビッチってことだろ?」
「…え…?」

態度の豹変とその言葉に驚いていると、
すかさず男の子の手が私の腕に伸びてきた。

気がつくと私は後ろの机に押し倒されていた。

「あ……」

身体が動かなくなった。
押し倒されたからじゃない、身体が石になってしまったみたいに固まった。

トラウマが、波のように押し寄せてきた。
息ができない 声が出せない

抵抗もできない

男の子は何か言いながら私の身体に指をはわせた。もう何を言っているのか何をされているのか理解しようとする思考回路も絶たれていた。


「ーーなにやってんの」

その声だけは、はっきりと聞こえた。

「なっ……藤っ?!」

驚いてバランスを崩した男の子は、私と共に近くに置いてあったキャンバスに倒れ込んだ。

「なにやってんのかって聞いてんだけど」

そっと顔を上げると、藤くんは男の子の胸ぐらを掴んで問いただしている。

「…てめぇには関係ねぇだろっ」

男の子は藤くんを突き飛ばすと美術室から出ていった。


抜けた腰と力の入らない足、震えが止まらない手。握った掌には赤い絵の具がついていた。

「……大丈夫か、大塚」

手を差し伸べてくれる藤くんに対して硬直してしまう身体が本当に情けなくて、私は俯いて涙を零した。
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