木曜日は立ち入り禁止。
「……怖かった?」

優しくて暖かい声が上から降ってきた。
ハンカチが差し出されて、直後タオルが頭にふわりと落ちてきた。

「…これ」
「絵の具拭くためのタオル。その作品、まだ乾いてなかったんだ」

そう言われて気づく。右手の先を見ると、キャンバスが落ちていた。

私、この作品を壊してしまった……?

「あのさ、そんな顔しないで。この作品は試行錯誤で作ってたものだから大丈夫」
「ごめんなさいっ…、私のせいで」

はぁ、とため息の後、乱暴に私の頭が拭かれた。

「っわっ、何っ…」
「大塚のせいじゃない、あいつのせいでしょ。もう、本当に昔から大塚は責任感じやすいんだから」

ぐしゃぐしゃと絵の具の付いたタオルをビニール袋に入れて、藤くんは立ち上がった。

「…まだ責任感じてる?」

向こうを向いたまま問われた。
表情が見えない分答えを間違えるのが怖くて、でも分からなくて、曖昧な返事をしてしまう。

「う、うん、ちょっと…」
「……分かった」

こっちを向いた藤くんは少し活き活きとした顔つきになっていた。

「責任感じてるならさ、少し付き合って欲しいんだけど」
「えっと、なにに…?」

彼はしゃがみこんで目線を合わせてから
いつもの気だるさが一切消え去ったかのような綺麗な瞳でこう言った。

「毎週木曜日、俺の絵のモデルになって」
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