あの日の誓い
***

 ハナの彼氏との対面日は、翌週の木曜日になった。お互いの都合のいい日がうまい具合にかち合った結果に、なんだかいいことが起こる気がした。

 待ち合わせ場所はもちろん、いつものバー。先に到着したのはハナたちで、申し送りの関係で遅れてしまった私は、約束の時間に10分ほど遅刻してしまった。

「はじめまして。華代とお付き合いしている津久野と申します」

 勢いよく店の扉を開けた私を見た津久野さんが、大股歩きでやって来るなり、丁寧に頭をさげる。そのことに面食らいつつも、遅れてしまったこともあって、私も深々と頭をさげた。

「はじめまして、ハナの友人の岡本絵里です。遅れてしまってすみませんでした」

「絵里、こっちこっち。マスター、いつものやつお願い! 彼にはこの間作ったカクテルで!」

 奥のボックス席にいたハナが、手招きしながらマスターにオーダーする。

「絵里さんは看護師さんだと華代から伺ってます。我々のように、時間通りに動けないのは当然のことでしょう」

「ええ、まあ」

「そんなお忙しい中で今夜お逢いできたこと、とても嬉しかったです。華代の話、いろいろ聞かせてくださいね」

 ハナから事前に聞いていた話――津久野さんはハナの上司で、部長をしているという。隣町の支店から本店に、半年前に栄転したそう。40代前半という実年齢よりも若く見える上に、物腰柔らかで妙に取っつきやいことが、逆に苦手だった。

「絵里、お疲れ様。今日はありがとね」

 ボックス席に腰かけたら、満面の笑みでハナが私に喋りかけた。

「こちらこそ、津久野さんに逢わせてくれてありがとう」

 言いながら、ハナの隣に腰かけた津久野さんに視線を飛ばした。

「話がはじまる前に、私ちょっとお手洗いに行ってくる」

 慌ただしく席を離れたハナを見送っていると、津久野さんがクスクス笑った。

「華代は緊張すると、すぐにトイレに行く癖があって。会社でもそうなんですよ」

「知ってます。変なタイミングで場を離れるものだから、緊張感がなくなってしまうんです」

「僕を絵里さんに逢わせるのに、なにを緊張することがあるんだか……」

「当然緊張するでしょう。だって、ねぇ」

 不倫していることを濁して、あえて言葉にするのをやめた。

「あの……絵里さんの連絡先って、教えてもらえることはできますか?」

 妙な間が私たちを包み込む前に、いきなりすごいことを訊ねられてしまった。

「私の連絡先って、どうして――」

(ハナがいないタイミングで、こんなことを聞くこと自体、どうかと思うけど!)
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