真面目な鳩井の、キスが甘い。
 その時、ハッとしたノアが私を抱きしめたまま体を横にずらした。

 次の瞬間、ノアの顔のすぐ横をすごい勢いでバスケットボールが通り、体育館の壁に激突して大きな衝撃音が鳴り響いた。


「日向から離れろ、クソ野郎……!」


 晴翔が、ボールを投げたあとのポーズのままそこに立ち、肩で息をしながら鬼の形相でノアを睨みつけている。


「晴翔ーどうどうー」


 空気をものともしない美愛が、いつものテンションで晴翔を宥める。


「わー、晴翔!美愛ちゃんも!久しぶり〜」


 これまた空気を気にしないノアが、私を抱きしめたままヘラヘラと笑っている。

 その神経の図太さが信じられなくて、声も出せずにノアの顔を見た。


「……ん?なぁに?チューする?」


 私の顔を覗き込んで顔をグッと近づける、スーパークズウンチくん。


「ヴォェエエ」


 心からの吐き気がした。


「あははっ、ひどいなー」

 爽やかに笑ってやがる。

 その爽やかさに吐き気が増して、必死にその腕から逃れようとノアの胸を押すけど、無駄に力が強い。

「もうっ、やだ、離して!」

「ははっ、素直じゃないなぁ。嬉しいくせに」

「素直だよ、超素直な気持ちだよ!」

「ねー日向、どうして僕のことブロックしてるの?」

 会話が全然成り立たなくて、絶句する。

「向こうついてから連絡取れなくて、すっごく寂しかったんだよ」

「……はぁ?」


 信じられない。ほんと、何言ってるんだろう。

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