真面目な鳩井の、キスが甘い。
 ……つまるところ。

 佐須川ノアは、私の過去一大嫌いな元彼で、スーパー最低クズ鼻くそゴミカスうんちっちくんなのです。はい、説明終わり。



「距離が離れて分かったんだ。ヒナがどれだけ大事な存在だったか」

 そしてまたノアが歯の浮くようなセリフを言っている。

「嘘つけうんちめ」

「も~、まだ怒ってるのー?今はヒナ一筋だから許して?ね?」


 付き合いだした時はイケメン過ぎてぶっ倒れそうだったこの顔面も、今はただただ気持ち悪い。


「てめぇふざけんなよ」


 私たちの元にやってきた晴翔が、強引にノアをはがして私を背にして間に入ってくれる。


「あのときどんだけ日向が辛い思いしたか分かってんのかよ!」

「晴翔…!」


 あのとき、一番近くで落ち込む私を励ましてくれたのは晴翔だった。

 優しい幼馴染の存在に、胸が詰まる。


「分かってるよー。それだけ僕のことが好きだったってことだよね?ずっと側にいたのに視界にも入れなかった誰かさんと違って」


 晴翔の気迫をものともしないノアが、笑顔を添えてそう言った。

 ん…?なんだろう今の意味深な言い方は?


「……」


 晴翔のこめかみにぴきっと青筋が入った。

 あ やばい


「コロス……」


 晴翔が、キレた。


「はっ、晴翔!落ち着いて!!」


 少年漫画のラスボスみたいにムキムキになって体操服破いちゃいそうな勢いの晴翔に、慌てて「人殺しはよくないよ…?」とか言ってみるけど、晴翔の耳には届いてなさそうだ。

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