真面目な鳩井の、キスが甘い。
 体育館を飛び出して、顔を俯かせて小走りで人がたくさんいる渡り廊下を抜けていく。


 うー……引っ込んで、引っ込んで、涙……!


 そう念じながら、さっきと同じく人気のない特別教室棟に入る。

 角を曲がって完全に人の目がなくなった廊下に着くと、私はヨロヨロと壁に寄りかかった。


「……はーーー……っ」


 社会科準備室の扉横の壁におでこをつけると、また、こみあげる。





 ……なんでこんな好きなんだろう。


 これからもこんな調子で、キスフレを続けられるのかな。


 いつか鳩井に好きな人ができた時、耐えられるのかな。


 好きすぎてもう……嫌いになりそう


 私は壁につけていた手のひらをギュッと握りしめた。








「波木さん」




「!?」




 バッと顔をあげると、

 鳩井。


 え!?いつの間に!?



「……大丈夫?」



 本物の鳩井が、息を切らしてそこに立っている。

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