真面目な鳩井の、キスが甘い。
 パッパの緑頭を見ながら、ママが今朝仕事に行く前「二人並んだら菱餅みたい!わたし白髪(はくはつ)にしようかな~」と嬉しそうにしていたことを思い出す。

 リビングにはパッパとママが結婚する前にやってたパンクバンドのアーティスト写真がデカデカと飾られている。

 それと洋楽ロックのポスターやギターのほかに、ママの大好きな夢カワなパステルカラーのグッズたちと、私の大好きなブサカワキャラものが一緒くたにごちゃごちゃ並んでいる。


 そう。波木家は遊びが多すぎるのだ。


「あー卵切らしてんだった。日向ー。買い物行ってくるけど、なんか買ってこようかー?」


 我が家の主夫であるパッパが大きな体をかがめて冷蔵庫チェックしながら聞く。


「……知能」

「あんまり根詰めるなよー」


 そう言って死神が描かれたキャップを被ったパッパは、エコバッグとママの日傘を手にお買い物に行ってしまった。

 私は目の前の数式たちと再び睨めっこする。


「うぅ……わかんない」


 どうして私、今までこんなに勉強サボってきちゃったんだろう……。

 なんにもわからない、わからないことがわからない。

 ……よし、数学はやめだ。

 英語の勉強にしよう。

 今日は英単語覚えるぞ!


 ガチャッと玄関が開く音がした。

 
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