真面目な鳩井の、キスが甘い。
「んー?パッパ、忘れ物ー?」


 廊下の先から顔を出したのは、パッパじゃなかった。
 

「うーっす」

「あ、晴翔」


 こめかみから汗を流す晴翔が熱そうに帽子を脱いで机に置き、そこにあったうちわでパタパタとあおぐ。


「どしたのー」

「これ。うちの香保子(かほこ)が作りすぎたから波木家に持ってけって」


 晴翔が手に持っていた保冷バッグから、タッパーを持ち上げた。
 

「あ!香保子ババロア!大好き~!」


 香保子は晴翔のママで、香保子ババロアは香保子ちゃん特製のバナナ入りババロアのこと。
 

「そんで今すれ違ったパッパが代わりにパウンドケーキくれるっつってたんだけど」

「あー、冷蔵庫の一番上~」

「おー」


 晴翔は迷いなくキッチンに入っていって、波木家の冷蔵庫をガパッと開ける。


「しかしあっちぃな。徒歩二分の距離で汗だくだわ」

「パッパが作ったフルーツ漬けあるよー。フルーツソーダ飲む?」

「え、飲みたい」

「どぞー」


< 176 / 320 >

この作品をシェア

pagetop