真面目な鳩井の、キスが甘い。
 晴翔はよろよろと、玄関の方へ向かう。


「あ、待って待って!パウンドケーキ!持ってくんじゃないの!?」


 私は慌てて晴翔を引き留めて、パッパのパウンドケーキを晴翔の保冷バッグに入れて持たせた。


「おー」

「あっ、帽子も忘れてるよ!」
 
「おー」


 帽子を手にしてもまだボーッとしてる晴翔に、不安になる。

 私が晴翔の手から帽子をとって頭にかぶせてあげるのを、晴翔はされるがままにしてて、不安がさらに加速する。

 だっていつもなら、子供じゃねぇんだからやめろ、とかツッコミが入るはず。

 
「大丈夫?一人で帰れる?」

「おー」


 そのままフラフラと玄関を出て、門扉にガシャンッとぶつかりながら帰っていくのを、私は心配になって家の外まで出て見守る。


「晴翔ー?ちゃんと前見るんだよー!」

「おー」


 ……晴翔が、〝おー〟しか言わない。


 物心ついたころからずっと近くにいたけど、こんなにボーっとする晴翔はほとんど見たことない。

 いつだって健康で、いつだって王様並みの横柄さで私をからかってくる晴翔が、フラフラ、ヨロヨロ。


 ほんとにどうしたんだろう……?

 
 太陽がじりじりと肌に照り付けていることに気付いて、私は慌てて日陰に入った。

 確かに暑い。

 ……暑さにやられた?

 あとで香乃子ちゃんに連絡してみよう……。
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