真面目な鳩井の、キスが甘い。
――ごめん、夏休み会うの難しそう……!

 
 昨日、放課後の保健室で両手を合わせて決死の覚悟でそう言った私に、鳩井は、


――そっか。


 以上。


「鳩井がしょっぱい……」


 まぁ、その後のキスは甘かった、けど。
 

「それは『鳩井の対応が塩過ぎてつら、もっとドロドロに甘やかして溺愛して闇落ちするレベルで求めて縋って沼って欲しい』って意味?」

「なにそのファンタジー鳩井」

 
 闇落ちするレベルで求めて縋って沼る鳩井なんて想像できない。

 ちなみに今日の放課後は鳩井が塾のため、なし。


「晴翔~どう思うー?」


 美愛がおもむろに声をかけたのは、今まさに鞄を持って部活に行こうとしていた晴翔。


「……なにが」


 晴翔がこれでもかってぐらい威圧的な目で私たちを見下ろす。


「聞いてたくせにぃ~」


 晴翔の圧をまったく感じないらしい美愛が力の抜けた声で言う。


「……知らねぇよ」


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