真面目な鳩井の、キスが甘い。
「じゃあ次!鳩井くん言ってみて~!それで終わりにしよう!」


 鳩井が〝それで終わり〟に反応して息をつき、もう一度私の方を見る。

 ごくりと鳩井の喉仏が動くのを見て、無意識に息を止める。


 ……あれ?

 そう言えば、鳩井に好きって言われたこと、あったっけ……?


「……」


 マスクのせいで、鳩井が口を開いてるのかどうかもわからない。


「……」


 キュッと手に力がこもって、鳩井の切れ長な澄んだ目に捉えられて、どんどん胸の高鳴りが大きくなっていく。


「……っ」

 
 あ、やばい、なんかもう、ドキドキしすぎて何も考えられない……っ

 何かの限界をむかえて、顔にボッと熱が集中した。




「!」



 次の瞬間、

 私は鳩井の胸に飛び込んでいた。



「!?」



 鳩井の左手で抱き寄せられたから。



「え…?は、はと、」

「すみません」



 ざわつく現場に、鳩井の低い声が響く。

 鳩井はカメラから私の顔を隠すように右手で私の後頭部をグッとおさえこむ。



「すみません、言えません」



 私の頭に落ちる鳩井の静かで控えめな声には、絶対に揺るがなそうな強い意志が含まれている。


 
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