真面目な鳩井の、キスが甘い。
「波木さん」


 もうすぐ出口、というところで鳩井が思いついたように足を止めた。


「ん?」

「忘れ物したから、ここで待っててくれる?」

「あ、一緒に行くよ~」

「いや、大丈夫。そこ座って待ってて」

「?はーい」


 まただーさんに絡まれたりしたらあれかなと思ったけど、鳩井がいいって言うならいっか。

 私は大人しくそこにあったベンチに座って、踵を返す鳩井の背中を見送る。

 暇になったから、SNSを開いて昨日撮ったネイルの画像をアップする。

 さっそくコメントをくれるファンのみんなにせっせとハートを返し、気になるコメントをピックアップして返事を書き込む。


 みんな鳩井のこと知ったらどんな反応するかな。

 喜んでくれるかな。


 コメントをスクロールしていくと『色ヤバいw ダッサw』と明らかなアンチコメントを見つけちゃって、少し気持ちが落ちる。


 色んな人がいるから、冷たい言葉を投げてくる人もいるかもしれない。

 私は慣れてるし、こういうものだって割り切れるからいいけど。

 ……もし鳩井が何か言われたら、嫌だなぁ。



 ふと、影が落ちた。

 顔をあげると、



「あ、晴翔」

「……よう」


 晴翔は目も合わさずそう言って、角を曲がった先にある自販機で買ったらしい缶のレモンスカッシュを手に私の隣に腰かけた。


「レナちゃんは?」

「別の撮影があるんだと」

「そっか~」


 晴翔は、鳩井よりもずっと大きく厚みのある手で小さな缶をプシュッと開けた。


< 220 / 320 >

この作品をシェア

pagetop