真面目な鳩井の、キスが甘い。

 ⋈



 
 

 私たちは撮影所を出て駅前の方へ向かおうと、車が多く行き交う国道の横に幅広く作られた歩道を歩き出した。


 さっきの、なんだったんだろう?

 やっぱり私の知らないところで、鳩井と晴翔、何かあったのかな。



「ねー鳩井、さっきのさぁ」


 話しかけた途端、鳩井はカクンッと膝を折ってその場にしゃがみこんだ。


「!?どうしたの!?」


 もしかして発作!?

 さっきキスしたばっかりなのに!


「や、違う……気が抜けて」


 力なく言った鳩井は片手で目元を隠し、はぁ、と息を吐いた。


 ……そっか。そうだよね。

 私は楽しくて、幸せいっぱいだったけど。

 あんまり目立ちたくないはずの鳩井が、あんなに人目にさらされて写真に撮られて……相当疲れたに決まってる。


 私は鳩井の前にしゃがんで、頭をよしよし、と撫でる。



「ありがとね、鳩井」



 鳩井が勇気を出して来てくれて、すっごく、すっごく嬉しかった。



 ……だからね。

 それだけで十分かもって、思うんだ。



「ねぇ、鳩井。やっぱり今日撮影したやつ、なかったことにしてもらおっか」

「えっ?」


 鳩井が目を丸くして顔をあげるのに、私はヘヘ、と照れ笑いを返す。

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