真面目な鳩井の、キスが甘い。
!
私は、真後ろから聞こえてきた『ハトイ』という響きに体を硬直させる。
今の声は多分、鳩井とよく一緒にいる尾道くんの声。
「これはスペア」
静かな低い声がした。
顔に熱が集中しそうになって、私は頭を空っぽにすべくリコーダーを口にくわえて崖の上の●ニョを小さく吹き始める。
●ーニョ●―ニョ●ニョしじみの子♪
頭の中が●ニョのクセの強い顔でいっぱいになっていく。
…けれど、尾道くんと鳩井の会話はしっかりと耳に入ってくる。
「なに?壊れた?」
「うん」
ピプッ
●ニョの音色が乱れて、美愛が「ん?」と私を見る。
「……」
息を吐けなくなった私の頭の中で、ある路地裏での映像が再生される。
それは鮮明すぎる、リアルすぎる光景。
痛みに顔を歪める鳩井、吹っ飛んで壁に激突して割れる眼鏡。
……もしかして、夢じゃない?