真面目な鳩井の、キスが甘い。
「鳩井」


 私は鳩井の眼鏡をとった。
 

「キスしたい」


 鳩井はちょっとだけビックリした顔をしてから「……うん」と顔を傾けて、目を細めた。


 そして始まる、優しくて甘い、甘いキス。

 もしかしたら、もうすぐできなくなっちゃうかもしれない、キス。



「ん……」


 
 私たちは、キスから始まった。
 
 鳩井がキス魔じゃなかったら

 あの日、路地裏で鳩井を見つけなかったら

 きっと私たちはこうなってない。

 私がキスフレを提案しなかったら、きっと今も、一度隣の席になったことのあるただのクラスメイトだったはずで。


 鳩井は優しいから、これからも変わらずに側にいてくれる気がする。

 ……たとえ、私への気持ちが薄れちゃったとしても。

 キス魔じゃなくなって、段々と気持ちが変化していって心が離れちゃったとしても、私のために、自分が言った言葉の責任を取るために、無理してでもいてくれると思う。


 だけどそれはきっと、すっごく辛い。

 鳩井も、私も。

 きっと、つらい。


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