真面目な鳩井の、キスが甘い。
 ちがうちがう、なにこの穏やかな空気。

 なにこの、妙に安心する空気。

 私が言いたかったことはこんなほのぼのした空気の中するような内容じゃないのに……っ

 鳩井をまとう謎の多幸感に引っ張られて、もう何が悲しくて泣いてるのか分からなくなってきた。

 わけわかんなくてだんだん腹が立ってきた私に、鳩井は言った。




「もう治ってる」


「……え?」



 息も、涙も、思考も。

 わたしのすべてが停止した。



 そんな私を嬉しそうに眺める鳩井が、もう一度言った。



「キス魔。もう治ってる」




「……」





 モウナオッテル?




 
 えっ





「……えぇぇえぇえええ!?」


 飛び上がる勢いで驚く私を、鳩井はさも当然のことのように静かに、穏やかに眺めている。


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