真面目な鳩井の、キスが甘い。
「え……えぇ……??」


 鳩井は床に無造作に置かれた眼鏡を拾って装着し、乱れた服をピンと伸ばして整えていく。


「や、ちょっと待って、え、…え?」


 さっき立ってるのもやっとだったはずの鳩井が軽々と立ち上がって、腰が抜けた私の手を引いて立たせて支える。


「……説明する。ちょっと歩ける?」


 静かにそう言った鳩井から目が離せないまま、私はゆっくりと頷いた。

 鳩井は私が自力で立つのを確認すると、手を離して歩き出す。

 そして湧き上がる数多の疑問。

 それらを口にしたいのを我慢して、私も鳩井の後をついていく。


「……」


 ひたすらに無言で階段を下っていく、ついさっきまで唇をくっつけていたはずの鳩井と、私。

 なんだこのカオスは。

 夢?

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