真面目な鳩井の、キスが甘い。
「『キス魔』っつっても酒飲んだやつが無差別でキスしたくなるアレとは違うぞー……いてっ」


 私たちの会話に割り込んだ鬼塚先生は、ベッド上のカーテンレールに頭をぶつけたらしく頭を押さえて顔を歪めてる。

 そしてその直後、


「おわっ!!」


 ガシャーン!!

 下に置いてあったバケツに足を突っ込んで滑って派手に転んだ。


「……大丈夫ですか先生」

「おー……やべ、1枚どっか行った」


 散らばるプリント達の中を、先生は床に顔をくっつけて掃除用具の下の隙間を覗いている。

 んん?先生、意外とおっちょこちょいキャラ?


「あー、あったあった」


 先生は見つけた一枚を机の上に置いた。

 私はその表題を読み上げる。


「口付け依存体質……?」

「そう。通称キス魔。定期的にキスしないと高熱が出て、ホルモンバランスが崩れて異性を寄せ付けるフェロモンを撒き散らしてしまう体質のこと」


 鬼塚先生は手に持った資料を読み上げながらパイプ椅子を二つ用意して、鳩井と私にそこに座るよう促した。

 異性を寄せ付ける、フェロモン……?なんだそりゃ?


「世界的にも症例が少ないから、日本じゃほとんど知られてない。欲求不満とかいうやつもいるが、少し違う。ただの欲求不満じゃ死にかけねぇからな」

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