真面目な鳩井の、キスが甘い。
「私覚えてるよ?」

「みたいだな」


 鬼塚先生がニヤッと笑った。

 だから怖いってその笑顔。


「フェロモンにあてられたやつはそれだけで催眠状態になる。そこをさらに塗り重ねるように催眠をかければかなり深い暗示になって、十中八九その事象を思い出すことはない。普通はな」


 え?

 視線を横にずらすと、鳩井と目が合う。


「……そう。だから波木さんは普通じゃない」

「……マ?」


 え?私、普通じゃないの?


「発作起きたのはさっき?」


 先生がカリカリと何か書き込みながら鳩井に聞く。


「さっきと、昨日も。昨日は特に強めに撒いちゃってたと思うんですけど、多分波木さん、ほとんどあてられてなかったです」

「2日連続で発作が出るのも珍しいな。波木は?なんか感じた?」

「え?」

「発作起きてる鳩井を見た時、なにか感じなかったか」


 私は鳩井の顔を覗き込んだ時のことを思い出す。


「っ……、」


 顔が熱くなる私を、鳩井が無垢な目で見ている。

 とてもじゃないけど、口に出して言えるような感情じゃありませんが?
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