真面目な鳩井の、キスが甘い。
 先生はため息をつく。


「今は波木に聞いてんだよ」

「無理です、ありえないですから」

「……」


 そんなに嫌ですか……?

 さっきの登山家的な発言に続き心に大ダメージをくらっていると、鳩井が机に手をついて立ち上がった。


「薬飲む頻度増やします。それでも駄目なら強い薬に変えてください」

「お前なぁ、」

「今日倒れたのは薬飲むの忘れたからです。これからは気をつけます。もう迷惑かけません。倒れません」

「……」

「薬貰ってもいいですか。先生」


 鳩井の気迫に折れた鬼塚先生が、引き出しから薬が入ってるらしい紙袋を鳩井に渡した。


「ありがとうございます。行こう、波木さん」

「え、?あ、」


 鳩井は私の手を引っ張って保健室の外に出た。


「失礼しました」


 何か言いたげな先生を残して、鳩井は保健室の扉を閉めた。

 そして私の手をパッと離して、廊下を歩き出す。

「鳩井、待っ…」

「波木さん」


 私の言葉を遮って名前を呼んだ鳩井が、立ち止まった。

 そして背中を向けたまま静かに言う。


「……今後、俺に近付かないで」


 ドクン、と心臓が痛くなった。


「……え……?」

「波木さん、なんでか……その」


 鳩井が自分の口元に手を持っていって、小さくなっていく声で言いづらそうに言う。


「めちゃくちゃおいしい、から……」



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