真面目な鳩井の、キスが甘い。
 わかる。めっちゃわかる。鳩井のそういうところめちゃくちゃ好き。

 でも女の子と話すの見たことないしそれに気づいてるの私だけだと思ってた……。

 美愛画伯は犬なのかウサギなのか熊なのか分からない動物を描きあげて、言った。


「もう顔見たらわかっちゃうよねー、幸村(ゆきむら)さんとかー」

「!」


 幸村さんは教室後ろの角に座る、物静かな女の子。

 鳩井と同じく眼鏡をかけている幸村さんは、一人静かに本を読んでいる……けど、さっきからチラチラ目線を窓際のほうに向けている。

 その先には…………HATOI。


「……マジだ」


 私はあんぐりと口を開けたまま動けなくなった。


「あの2人同じ図書委員でしょー?人しれず距離縮めてっかもよー」

「!?、っ、……!?」

 どうしたらいいかわからなくなって涙目で美愛にすがりつく。

「あはは、まー落ち着いてーこっからこっからー」

 まるで心のこもってない美愛の応援とほぼ同時に、近くの男子の話が耳に入った。


「なー幸村さん最近かわいくなったよな。ちょっと色っぽくなった?」

「あーわかるわかる、髪切ってからいいよな。色気すごい」

「……!!」


 I RO KE


「……」


 口から魂が抜け出した。


「ひ、日向にも、色気アルヨ?」

「……」


 美愛ちゃん。君の嘘がつけないところ大好きだけど、今はちょっとつらいよ。



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