真面目な鳩井の、キスが甘い。

 ⋈ 







「うぅ……ねぇ鬼ちゃん、どうして……?」

「誰が鬼ちゃんだ」


 保健室は今日も閑散としていて、昔ながらのやかんがシュンシュンとお湯を湧かす音と、私のむせび泣く声が響いている。


「どうして世の中にはセクシーな人とそうじゃない人がいるの……?」

「……さぁな」

「セクシーになれる薬、ありますか?」

「ねぇよ」

「作ってよ鬼ちゃーん」

「無理」

 鬼ちゃんははやくも鬼ちゃんと呼ばれることを諦めたらしかった。


 ──……鳩井とこの保健室を訪れたあの日から、二週間ほどが経っていた。

 以来、私は放課後の仕事が始まるまでの暇つぶしに保健室を訪れるのが日課になっている。

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