真面目な鳩井の、キスが甘い。
「……鳩井が初めて発症したときキスしたのがきっかけで付き合い始めた彼女だったらしい。元々その子に惚れてた訳じゃなくて、ファーストキス奪っちまったっていう責任を感じて付き合ってたんだろうな。だけど彼女のほうがどんどん重くなっていって耐えきれなくなって、鳩井が別れを切り出したらその子がストーカーになっちまって」

「え」

 ストーカー……!?

「しまいには死んでやるーとか言い出して……まー大変だったらしい」


 ……なんか想像してたより……、


「……重いっすね」

「重いよなぁ……」


 鬼ちゃんは私の前に座ってコーヒーを啜った。


「……あいつは」


 ニャンコのマグカップがコトリと机に置かれると、フワ、とコーヒーの香りがした。


「鳩井は、いっつも罪悪感と戦ってる。あいつ自身は何も悪くねぇのに」

「……」



 『ごめんね、波木さん』

 『ほんと……ごめん』

 『嫌なことしてごめん』



 ……確かに鳩井、何度もごめんって……。



「なんとかして解放してやりてぇんだけどな」



 ……鳩井は

 どんな気持ちで私にキスしたんだろう。



「……」

「まーつまるところ、好かれるのが怖いんだってよ。望むものをやれないから」

「……そっか」


 そういうことだったのか。やっぱり鳩井って、優しい人なんだなぁ……。


 …………ん?
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