真面目な鳩井の、キスが甘い。
「本当に大丈夫だから、死なないし……あ」



 ポタリ。

 鼻、血。


 みんなの血の気が引く音が聞こえた気がした。


「ひ 「保健室行ってきます」


 みんなの悲鳴が響く前に立ち上がって、先生に声をかけた。


「は、鳩井、一人で行けるか……?」

「はい」


 心配そうな先生との会話もそこそこに、眼鏡をかけて鼻血を手でおさえながら体育館を出る。


 あのままいるとみんなの心配がエスカレートしてしまうと思って慌てて出てきたけど……床についた鼻血、そのままにしてきてしまった。

 尾道が拭いてくれてるかな。申し訳ないな。

 ……あ、急がないと鼻血が廊下に垂れそう。

 ひとまず体操服を持ち上げて鼻にあてがうけど、しばらく止まりそうにない血を、どれほど持ちこたえられるだろうか。体操服を持ち上げたことにより外気に触れたお腹が冷えていくのも気になる。

 少しクラクラする頭で速歩きする廊下はしんと静まり返って、授業を抜け出してしまった高揚感と、鼻血が垂れないかという不安で少し心拍数が上がる。


 そして保健室へ続く廊下を見て、ふと思い出す。


 あの日、いつもは元気すぎるくらい元気なのに、少し恥ずかしそうにして黙って後ろをついてきた彼女のこと。



「……」



 あのときの波木さん……かわいかったな



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