真面目な鳩井の、キスが甘い。
「……ありがとう」

「あっ、や、全然、です……うん」

「……」

 それ以上何か言うことも出来ずに、体操服から手を離してピンクのタオルに自分の鼻をあてがいながら保健室へ足を向けた。

 ……花の匂いがする。

 歩幅の小さな幸村さんに合わせて、ゆっくり歩き始める。


 ……幸村さんは、いい人だ。

 割と雑務の多い図書委員の仕事も嫌な顔一つせずやってる。

 持ち物を大事にするし、怒るところも想像つかない。

 欠点を上げるほうが難しいかもしれない。


 そんな幸村さんは多分、




「あ、あの……鳩井くん……!」


「……はい」




 ──……来た。


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