真面目な鳩井の、キスが甘い。
 ヒロインが突然ホラー映画みたいな悲鳴を上げた。

 僕を見るその表情は恐怖に覆われていて、その恐怖が伝染してこっちまで怖くなってくる。


 なんだ?まさか波木さん、なんか何か見ちゃったんだろうか。


「鳩井、血……っ、血が……!!」

「えっ?」


 波木さんの指さす先の自分の体操服を見て、ようやく納得する。


「あ、これ……鼻血、おさえるのにこうするしかなくて」

「へ……あっ、鼻血!?なんだ、血吐いたか刺されたかしたのかと思った!ビックリしたー!」


 そう笑った波木さんはホッと胸をなでおろ


「……え、待って、多くない?それはそれで多くない?え、ヤバくない?死ぬくない??」


 ……さなかった。

 相変わらず波木さんは言葉数が多い。僕の10倍はありそう。


「や……大丈夫」

「え、死ぬってそれヤバいって、救急車案件だって……!」


 言われてみればちょっとクラクラするかも、なんて思いながら、

 〝救急車〟という単語と波木さんの血の気の引いた顔を見て、思い出してしまう。


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