真面目な鳩井の、キスが甘い。
「……」


 痛めつけて疲れ切った胃袋の、少し上。

 胸から喉の奥あたりにかけてじわりと広がる、言葉ではうまく言い表せない、くすぐったい何か。


「…………はーーー」


 その何かをなんとか外に追い出そうと吐いた大きなため息に、波木さんがまたビクッと体を跳ねさせた。

 熱さでおかしくなりそうな顔を両手で覆って隠し、小さな声で手の中に呟く。



「……そっか」



 ……

 ……ヤバいな

 凄く、かなり……嬉しい



「……あ、あのさ、鳩井さ、さっきー……」

「……?」


 波木さんが何か言いかけて、顔をあげた時だった。



 ドクンッ。



「!」



 心臓が予期せず大きく高鳴った。

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