真面目な鳩井の、キスが甘い。
 もう、やめてくれ


 もう嫌なんだよ


 これ以上傷つけたくない


 傷つく顔を見たくない


 それでも生きてるだけで誰かを傷つけるなら


 せめて、大切なものを大切にしたい


 だから、



「はと… 「ストップ」



 彼女を抱き寄せてめちゃくちゃにしたくなる衝動を必死で押さえ込んで、右手のひらを差し出して彼女が来ないように止める。



「大、丈夫……」



 息も絶え絶えにそう言って、念の為ポケットに忍ばせていた薬を取り出した。

 この薬は最低でも6時間はあけろと言われてる。

 今日飲むのは3回目となるその錠剤を、アルミのシートからプチッと手のひらに出した。

 見るだけでも胃痛が増すようになったそれに、思わず手が止まる。




 ……でも波木さん泣かせるくらいなら

 死んだほうがマシ。




 目を閉じて、それを口に入れようと手を持ち上げた。




「っ、鳩井!」




 その時だった。

 いつの間にかすぐ近くにいた波木さんが、




「……!?」




僕の唇に、自分の唇を押し付けた。


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