真面目な鳩井の、キスが甘い。
 波木さんが唇を離したので、思考をパンクさせた僕の手が無意識に波木さんの耳裏に伸びる。


 ……めちゃくちゃに、したい。


 波木さんの唇にかぶりつこうと、は、と息を吸ったときだった。




「……鳩井?」

「!」




 心配そうな波木さんの呼びかけが、僕の理性を引っ叩いた。




「……はい」




 あ……、危なかった。

 いわゆるトランス状態に入ろうとしてた、危なかった。危なかった、危なか、った。

 自分のしようとしていたことに、血の気がサァ……と引いていく。


「治った……?」


 そう涙目で言った波木さんに胸がキュッとなったとき、改めて今の自分たちの体勢に目がいった。




「……」




 ……治った。


 けど。


 馬乗りになって、そんな顔でこっち見られたら、ちょっと、ぶり返しそうっていうか……普通に……、


「……ちょっ……と……」


 目を逸らして、どうしても上ずってしまう声を漏らすと、波木さんが「ん?なに?」と無垢な声を返す。

 こんなピュアな波木さんに対してまた理性が飛びそうになってる自分に、本当に腹が立つ。


「……一旦、降りて」


 余裕のなさと苛立ちの混じった声が出る。


「!ご、ごめん」


ようやく自分たちの体勢のきわどさに気付いた波木さんが、顔を赤くして僕の上から降りた。


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