真面目な鳩井の、キスが甘い。
「……え?」



 したかった、から……?

 ……キスを?



「……あ」

 しまった、と書いてありそうな顔の波木さんが「あっ、いや、ちが、その、」とワタワタと手を動かして動揺する。

 それをベッドに座ったまま呆然と見る僕も、内心動揺がおさまらない。


 催眠の効かない波木さんが?僕と、キスしたかった?

 ……違う、ありえない、そもそも、



「あっ、そう、私、セクシーになりたくて!」



 波木さんがこれだ!と言わんばかりに人差し指を立てて言った。



「……セクシー……?」


「そう!セクシー!」




 セクシー……




「…………うん?」



 ちょっと、よくわからない。



「あの、あのね、撮影とかで……あっ、私、読モ、読者モデルというものをしてるんだけどね!」


 それは知ってる。

 というかこの学校でそれを知らない人なんていない。
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