真面目な鳩井の、キスが甘い。
「鳩 「ごちそうさまでした」



 鳩井が律儀に頭を下げた。



 頭の中で試合終了を意味するゴングが鳴った。



「…………おそまつさまでした」



 ……そうだね。食べ終わったらごちそうさまだね。ちゃんと言えてえらいね、鳩井。



「ふ」


 鳩井が顔を少し俯かせながら片側の口角をあげた。


「!」


 わ、笑……っ!?


「お粗末じゃないよ」


 鳩井は優しい顔でそう小さく言って、眼鏡をかけた。


「っ……、」


 はい出た〜天然タラシ〜〜〜!

 不意打ちの笑顔〜〜〜!

 そうやって静かに無自覚にたくさんの地味っ子ちゃんたちを釣っちゃってるんですか?

 幸村さんのこともそうやって釣り上げたんですか!?あん!?

 私は胸キュンと嫉妬に悶えるのを、枕を抱きしめてやりこめる。


「……ん?」


 そんな私を、鳩井はカーテンを開けながら不思議そうに見た。

 その仕草にもまたキュンとしちゃうから困る。


「ナンデモナイヨ」

「……そっか」


 明らかに様子のおかしい私に触れることなく、鳩井はスクールバッグを持った。

 すると、保健室の扉がノックされる。

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