小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「それじゃ、おやすみなさい。・・西島先生、本当にタクシー降りて良かったんですか? ご自宅まで乗って行かなくて」

「はい。こないだ部屋の電気が付くまで見送らなかったこと、後悔したんです。途中で倒れたりしたら、送ってきた意味が無いなって」

「そうだったんですか・・。だから走って戻ってきてくれたんですね。でも、今日は頭痛も無いですし、お酒も飲んでいないので、ここで・・マンションの前で大丈夫です」

それなのに、彼女も俺も向き合ったまま動かなかった。
俺は彼女が入っていくのを見送ろうとして、彼女は俺が立ち去るのを見送ろうとしていたから。

困ったな・・。

「今夜は、私が先生を見送ってもいいですか?」

「・・ダメ」

「え・・?」

「俺も、見送りたいから」

俺は左手で、彼女の右手をそっと握った。
もちろんそれは、子どもにするのとは違う意味で。

自分の鼓動が早くなっていくのを感じた。
もしかしたら、俺の指先から彼女に伝わってしまうんじゃないかと思うほどに。

「あの・・先生・・?」

俺を見上げる彼女の瞳が揺れている。


「俺、平嶋さんを好きになった・・」


握った手を引き寄せ、右腕で彼女の身体を包んだ。
彼女が息をのむ音が聞こえる。


「・・好きになった」


距離が近くなった分だけ声量を落として、囁くようにもう一度言う。

彼女と、一緒にいたい。
その感情が、制御していたはずの思考を超えた。

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