小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
玄関に入ってすぐは、さすがに余裕が無さすぎだろうと思い、タイミングを探っていた。

そう、キスするタイミングを。

リビングの煌々とした灯りの下よりも、廊下の間接照明くらいの方が恥ずかしくない気がして、リビングに向かって先に歩く彼女の手首をつかんだ。

立ち止まった彼女が振り返る。


「・・ん」


重ねた唇から、わずかに彼女の吐息が漏れる。

軽く、数回。
そして、食むように何度か口付けた。


ブブブブ・・ブブブブ・・。


甘い時間から、一瞬で引き戻される。
彼女にも、振動が伝わったはずだ。
病院からの・・呼び出しだろう。


「ごめん」

「いえ。出てください、電話」


やはり病院からの呼び出しで、交通事故の搬送が救急外来にあったらしく、深刻な状況ではないものの、子どもが含まれているから診てほしいとのことだった。

「分かりました。今から・・そうだな、20分くらいで。はい」

電話を切った後、俺は彼女をぎゅっと抱きしめた。

「・・先生? 行かないと」

「あと5分だけ。いや、3分だけ」

彼女も俺の背中に腕を回して、確かめるように言った。

「またすぐ・・会えますか?」

「もちろん。ね、お願いがあるんだけど」

「お願い? 何ですか?」

「『先生』じゃなくて、名前で呼んでくれる? 俺も名前で呼びたい」

こくんと頷くのを確かめて、少しだけ考えを巡らせる。
『茉祐子』と呼んだら、大翔と同じだから・・。

「茉祐」

そう呼んだ俺に、彼女は驚いたように顔を上げた。

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