小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「『茉祐』って呼んでもいい? 何か俺だけの特別な呼び方がほしくて・・。ダメかな」

彼女は首を横に振り、その後で、小さく『祐一郎』とつぶやく。

「そろそろ行くよ。今夜は連絡できないかもしれないけど、明日は必ず」

自分から行くと言ったものの、名残惜しくて彼女を離せずにいた。
そんな俺に、彼女は背中をポンポンと軽く叩く。

「行ってらっしゃい、祐一郎。終わったら、ここに帰ってくる?」

「えっ」

「明日は家で仕事する予定だし、いつでもいいよ。ほら、もう行かなきゃ」

そう言って、彼女は俺の腕からするりと抜けた。
そうだな・・行こう。

「おやすみ、茉祐」


自分でも驚く・・。
病院に向かうタクシーの窓に映る顔を見て、フッと笑った。

俺は、あんなふうにサラリと告白できるような男じゃない。
なのに、どうしてだろう。

『俺、平嶋さんを好きになった・・』

全く、どんな顔で言ったんだよ、俺は。

別に勝算があって口にした訳でもない。
本当に、自然に気持ちが言葉になっただけだ。

でも、良かった。

結果としては彼女の気持ちも聞くことができて、俺たちは『恋人同士』になれたのだ。

「茉祐・・」

大切にしようと思う。
心から。

ただ・・。

キスしたい衝動に駆られたのと同じように。
身体を繋げることも、きっと我慢できないんだろうな・・。

俺は苦笑いした。

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