小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
深夜に近い時間帯だったこともあり、10分ちょっとで病院に着いた。
小児科の医局で着替えだけして、すぐに救急外来に向かう。

「西島先生、こっちだ」

奥の方から大翔の声がした。

「悪いな、遅くに呼び出して。目立った外傷はないんだけど、あの男の子、ここに来てからひと言も話さないんだ。祐一郎なら何か分かるんじゃないかって・・」

「そうか、引き受けるよ」

「じゃあ、頼む。俺は先に搬送されてきた女性の処置があるから、そっちにいる」

「了解」

電子カルテの情報を見ると、5歳の男の子だった。
先に搬送されてきた女性というのは、もしかしたらこの子の母親だろうか。

俺は男の子の隣に座り、そっと背中をさすった。

「どこか痛いところある? もしあったら教えて」

背中をさすりながら、俺はこの子にだけ聞こえる声量で話しかける。
他のオトナたちには内緒にするよ、という気持ちを込めて。

「・・ない。へーき・・だよ」

ぽつりと返事をしてくれた。

「そっか・・。でも大きな音がしたり、ぶつかったり、大人に囲まれたりして、びっくりしただろ。怖かったな」

じっと目を見つめてゆっくり話すと、少しずつ、男の子の目に涙が浮かんできた。

5歳の男の子にだって、プライドはある。
ぐっと感情を抑える子どもだっているのだ。

俺は、男の子が他のスタッフや患者さんから見えないように、背中を向けてから彼をそっと抱き締めた。

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