小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
俺が出席する予定だった小児科学会のプログラムは時間通りに終わり、16時半には会場を後にした。
彼女の方は、どうなっているだろうか・・。

ブブ・・ブブ・・ブブ・・ブブ・・。

彼女からの着信だ。

「もしもし、茉祐?」

『祐一郎、もう少しで出れそうよ。一緒に帰れる?』

「ほんとか? それなら・・まだ時間もあるし、俺が神戸まで行くよ。新神戸から一緒に帰ろう」

『いいの? じゃあそうしようかな。こっちで待ってても大丈夫?』

「ああ、これから向かうよ。新神戸で待ってて」

良かった・・。
俺は新神戸までのルートを検索し、すぐに電車に乗った。


「茉・・」

新神戸駅の新幹線の改札近くで彼女を見かけ、名前を呼ぼうとして途中でやめた。
後ろ姿しか見えないが、男と話しているように見える。

誰だ? あいつ。

まだ距離があり、何を話しているかも聞こえない。
ただ、彼女の表情は困惑しているようだった。

「茉祐!」

思い切って声を掛けると、彼女は泣きそうな顔で俺の姿を捉え、話していた男はこちらを向くこともなく彼女から離れていく。

「あ・・待てよ」

呼び掛けたものの、そのまま人ごみの中に消えていった。
顔ぐらい確かめようと思ったのに。

「祐一郎・・・・早かったね」

「・・うん。それより茉祐、いまの男は・・」

「あ・・前に翻訳をしたことのある先生で・・同じ学会にいたみたい。挨拶がてら、少し話をしていて・・・・それだけ・・」

そう言って、彼女は俯いた。

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