小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
次の日の午後、俺は土産を持って救急外来に向かう。
もし大翔と少し話ができるようなら、彼女の話をするための時間をとってもらうつもりだった。

通路から少しのぞくと、たまたまレントゲンを見た後に視線を外した大翔と目が合う。
俺は土産の袋を持ち上げて『渡しに来た』とアピールした。

「祐一郎、どこ行ってきたんだ?」

救急外来の通路に出てきた大翔が、俺の土産を見ながら場所を確認している。

「大阪の学会だよ。昨日、大学の教授に勧められた講演があってさ」

「ふーん・・。大阪で何かあったのか? 土産持ってくるなんて珍しいから」

「ちょっと・・な。正確には大阪じゃなくて、神戸で・・。いや、大阪も・・か」

大翔と話をしていて、思い出したことがある。

新大阪のホームで『まゆこ』と呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、もしかして、同一人物・・なのか?

「神戸? 大阪も?」

「とにかく大翔、時間作ってくれ。話したいことと聞きたいことがあるんだ」

「珍しいな、祐一郎がそんなこと言うなんて。急ぐんだったら・・明日の昼でもいいか? 今夜は遅くなりそうなんだ」

「もちろん。忙しいのに悪いな」

小児科に戻る途中で、ポケットに入れていたプライベート用のスマートフォンを起動する。
無い・・か。

昨晩、帰宅した彼女から『おやすみ』とメッセージがあったきり、今日は一度も連絡が無い。

昼頃までは、疲れて寝ているのかもしれないと思っていたものの、さすがに15時なら起きているはずだし、俺も何度かメッセージを送っているから、返信があっていいはずだ。

仕事が終わるまでに連絡が無いようなら、彼女の家に行ってみるか・・。

そう考えながら、俺は医局に戻った。

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