小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
彼女が昨日ケーキを食べそびれていたのを思い出し、向かう途中でケーキを買って彼女の家を訪ねる。

インターホンを押そうとボタンに指をかけると、中から彼女の声がした。
誰かが来ていたから、連絡が無かったということか・・。

そこに俺が入っていくのもどうかと思い、ドアから離れようとした時に内側からカギを開ける音がする。
隠れる必要もなかったが、俺はとっさに通路の陰に身を寄せた。


「それじゃ」


え・・・・この声・・。
聞こえてきた声に、覚えがあった。

『まゆこ』

あの時の、落ち着いた低音の声だ。


ハッとして通路を見たものの、既にエレベーターに乗った後で姿は見えなかった。
でも、まだ外にいるかもしれない。

俺は買ってきたケーキの袋を彼女の部屋のドアノブに掛け、エレベーターで1階に降りた。

「いない・・か」

外に出て辺りを見渡してみたけれど、それらしい男はいなかった。

いや、そうじゃない。
通りを歩いている男は何人もいたのに、そもそも『それらしい男』の声しか知らないのだから、分かるはずがないのだ。


「・・いったい、何がどうなってるんだよ・・・・」


突然現れ、そして距離を縮めてきた男の存在に、俺は訳も分からないまま家に帰った。
彼女の家に引き返し、混乱した感情を彼女にぶつける気にはならなかったから。

そんなことをしたら、きっと俺たちはお互いを失ってしまう。
そう思った。

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