小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
夜間の呼び出しもあるからと、普段は飲まないはずの酒をリビングで飲んだ。
ウイスキーを、ロックで。

最初は考えることを拒否していた脳も、少しずつ酔いが回ってきてほぐれたのか、これまでのことをゆっくりと思い出した。

全て、繋がっているんだろうか。
全て、同じ人物のことを指しているんだろうか。

最初は、大翔だ。

『俺、茉祐子が困ってる時に話聞いてやれなくてさ。それどころか、責めたんだ』

この話を聞いた時、これが男のことだとは考えていなかった。
でも、何のことか、誰のことか、明日大翔に聞くことができるはずだ。

次は新大阪。
『まゆこ』と呼ぶ、落ち着いた低音の声。

そして、新神戸。
彼女を困惑させていた、後ろ姿の男。

最後が、さっきの出来事だ。
彼女の部屋から『それじゃ』と出てきた男。


・・・・誰なんだよ。
俺には見当もつかない。


ブブ・・ブブ・・。

振動はすぐにおさまり、着信ではないことを知らせる。

『ケーキありがとう。冷蔵庫に入れました。おやすみなさい』


・・・・。


彼女からのメッセージに返す言葉が見つからず、そのままにした。
『おやすみ』のひと言さえ、返せない自分に苦笑いする。

何かひと言でも発すれば、形になって溢れ出てしまいそうな感情が、胸の奥にある。
冷静でいられない代わりに、俺はしばらく心を閉ざそうと思った。

『彼女には、別の男がいる』

その事実から、目を背けるために。


俺は空になったグラスに、もう一杯分ウイスキーを継ぎ足し、できるだけ何も考えずにゆっくりと飲んだ。

< 41 / 107 >

この作品をシェア

pagetop