小児科医の恋愛事情 ~ 俺を選んでよ…もっと大事にするから ~
「俺さ、茉祐子が困ってる時に話聞いてやれなくて、それどころか責めた・・って言ったよな。あれ、どのくらい前だったかな・・・・」

大翔は、俺に何か聞くわけでもなく、淡々と話をしてくれた。
俺も、それをじっと聞いていた。


3年前。
彼女がまだフリーランスになる前のことだったらしい。

大学病院と彼女が勤務していた翻訳会社が提携していて、彼女はある研究室に出入りするようになった。

そこには奥さんを亡くしたばかりの教授がいて、真摯に仕事をする彼女の存在が、いつしか悲しみを埋めるようになり、愛情を向ける対象に変わっていったそうだ

でも、彼女はその愛情を受け入れなかった。
あくまでも、仕事上のパートナーでしかないといって。

ただ、相手の教授の精神状態が不安定だったことと、下手に『教授』という地位や権力があったことが良くなかった。
正攻法で受け入れられなかったことで、その教授は故意に彼女とふたりきりになるようにしたり、ふたりだけの出張を組んだりするようになった。

当然、彼女は抗議した。
教授本人にも、翻訳会社にも。

そんな噂話を事前に聞いていた大翔は、たまたま都内で開催されていた救急医学会で彼女に会い、それに近い話を彼女にもされたらしい。

ただ、大翔は講演の最中にも関わらず、救急搬送の数が多かったことで病院から呼び出されていて、時間的に余裕が無かったそうだ。

「俺、ろくに話を聞いてなかったくせに言っちゃったんだよ。つけ入るような隙があったんじゃないのかって。そしたら茉祐子が『かなり飲んで酔った時に、一度だけ・・』って言ったんだ。それ聞いて、自業自得だろって責めたよ・・・・」

大翔は、深く息を吐いた。

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